独り言多めの読書感想文

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half loversアンコール③solo play 4月14日(木)2時~〈前編〉



  一

 そこはスノボの時泊まった宿だった。
 結局使うことのなかった部屋備え付けの露天風呂。湯けむりで曇った大窓。
 間接照明。こっちに背を向けて座っているのは弟子だ。その隠れた指先。薄手の浴衣は小さな身体にはどうにもこうにも大きく見える。
「寒くないか?」
 振り返る。光の当たり方の変わる黒髪。その目が揺れた。無意識に縮める身体。
 低い明度に逆光。弟子はメガネをしていなかった。だからか分からない。全力で防衛に回るその肩をつかんで揺さぶる。
「違う、俺だ」
 間近でのぞき込むとゆらゆら揺れ続ける目の奥が少しだけやわらいだ。
「師匠」



 ホッとして広げられた両手。その腰に腕を回すと、静かに横たえる。細い身体は抱きしめている感覚がない。
「よかった、師匠だ」
 その髪の隙間から見える肌は白。耳元をかき分けて唇を押しつける。背中に回った手が俺の頭をなでた。うれしそうに笑う声。
 何だよ。
「・・・・・・順番が逆だ」
 丸くした目。鼻先の触れ合う距離でささやく。
「見てろ。すぐ『師匠、よかった』に変えてやる」
 何のことか分からず、でもひそやかに強張った頬に口づける。
「大丈夫だ。お前が嫌がることは絶対にしねぇ。止まって欲しけりゃ俺の肩を叩け。それが合図だ」
 そうしてその後ろ髪を片手で掴むと、首元に吸い付く。
 腕の中で弟子が震えた。微かに漏れた息。
 あー。
 あごの裏、下から押し上げるようにして鼻先を押しつけると「ふふふ」と弟子は笑いながら身をよじった。肩に置かれた手。まだ叩かれることはない。
 その手を捕まえると、指を絡ませる。青白い血管の通る手の甲。桃色の爪。その先端をくわえる、と「ばっちい」と言われた。
 ふざけんなよ。
「上等だ。テメェがどんだけキレイな生き物か見せてもらおうじゃねぇか」
 言いながらその帯に手をかける。横になって動いていた分、既にゆるんでいて、簡単に外れる。弟子は反射的に身体を縮こめた。

「・・・・・・オラ、嫌ならそっち向いてろ」
 同時にその身体をひっくり返す。汚れを知らない背中は白い。
 銀世界。まっさらな雪の表面。つけるのは足跡なんかじゃない。
 その片袖を外すと、小さな肩甲骨に口づける。その下、くぼんだ所を軽く吸い立てると、肌の表面が波打った。少しずらして背骨の少し右、舌でなでると同じように吸い立てる。
「師匠、くすぐったい」
 ふるふると肌を震わせる弟子は楽しそうだ。思わず頬がゆるんだ。
 あー。
 その身体を抱きしめる。肩に噛みつくと、途端にはねた。
 驚いて振り返ったその唇にキスをする。
「師匠」
 ようやく気づいたか。
「・・・・・・そうだよな。その体勢じゃ俺の肩は叩けない」
 強張る身体。その目の表面が揺れる。
 ゆらゆらゆらゆら。
 その意思は懇願。思わず声に出して笑ってしまう。
 知るかよ。
 その髪をつかむ。素直でまっすぐ光をはじき返す黒がゆがむ。しなる。乱れる。
 むさぼる。髪を掴んだ手を引いてのけぞらせると、簡単にその口が開いた。
 キスは、何故するか。
 愛情表現。本能。エトセトラ。
 実のところなんてどうだっていい。したいからする。それだけ。ただ
 女を興奮させる類いの成分が、野郎の唾液には入っているとかいないとか。だから詰まるところ、
 キスは、ノックだ。主人の帰りにドアを開けてもらうのと一緒。
 オイ、開けろ。俺だ。
 無理な体勢に元に戻そうとする力が働く。苦しそうに伸ばしていた首を戻すと、弟子ののどが動くのが分かった。
 ゾクッとする。それは、俺のが、入った瞬間。
「なぁ」
 肩で息をする弟子は、頬を上気させたまま目を合わせる。
 その髪をすくう。こぼれ落ちる、これ以上ない上質な黒。
「頼むよ」
 言いながらすくった髪に口づける。どこぞのキザな野郎がやるのを見たときは吐き気がしたが、今ならその気持ちが分かる気がする。
 コントラスト。その向こうに見える白い肩。目がチカチカする。
 息が、つまる。言っちゃいけない一言が、喉元まで出かかってる。
 その目の表面が揺れる。ゆらゆらゆらゆら。
「師匠、」
 ダメだ。分かってるな、弟子。それ以上は
 その眉間にシワが寄る。その目が揺れた。
「好き」

 その身体を再びひっくり返す。目を突くような白。そののど元に歯を立てる。胸元で縮こまっている腕。隠すもんなんかねぇだろテメェは。
 両手首をつかんで頭上に押さえつけると、丁度胸の間、骨の当たるところに舌を這わせる。必死で身体をよじってみせるが、無駄なもんは無駄だ。
 よだれが、落ちた。ツンと上を向いた乳首の上。
 震わせた身体のことなどもう知らない。気にかける余裕もない。
 ひどくのどが乾く。分泌され続ける水分。コイツを興奮させたいと何より自分の身体が思っている。だから
 寄越せ。
「師匠っ」
 ヒトカケラの理性で自分の襟首をつかむようにして、やさしく、やさしく吸い立てる。
「待ってっ・・・・・・ししょっ」
 徐々にそれっぽい声になっていく。それが、ヒトカケラの理性でさえ、ぶっとばそうとしてくる。
 あー。