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『キリエのうた』映画感想

『キリエのうた』すごく良かった。私にとってこの映画が今年のベストだ。3時間があっという間だった。
 ふと思い出したのは『さくらん』。吉原遊郭を舞台に身売りされた少女の半生を描いたもので、この映画、最初から最後まで椎名林檎さんの楽曲が流れている。だからこの作品を見返す時、「純粋に作品が観たいから」と「林檎さんの曲が聴きたいから」という二方面からの動機が生じる。
 同じく『キリエのうた』は、けれど作品のタイトルにもなっている以上、『さくらん』以上に「うた」のクオリティが求められる。これに見事に応えているのが主人公アイナ・ジ・エンド。

 

 アイナは元BiSHのセンターで、そのハスキーボイスは一度聴いたら忘れない。ソロでYouTubeにあげている『消えないで』では、映画作中にも使われているようなバレエを披露しており、その美しさに当時からこの姿がもっとたくさんの人の目に触れるといいなと思っていた。

 

 何にせよ「うた」である。
 いくら演技やダンスが良かったとしても、あくまでこの作品の柱はうたで、だから確固たる柱、このうたを歌うのが彼女で良かったと心から思う。彼女のために作られた映画だとさえ思える。作中で「うたは人生を変える」というセリフが出てくるが、そんな言葉を重いと感じさせないだけの力が彼女のうたにはあった。
「Lemon」や「ドライフラワー」。誰もが知っている楽曲。ふいに涙が出た。
 分からない。明確な理由もなく涙が出た。歌うことで伝えようとする何か。「感情」では収まらない、もっと別の、オーラとかパワーとかそういう類の。
 カフェでいきなり「歌えよ。歌は人前で歌うもんだろう」と言われて、挑発に乗るように歌い出した時には鳥肌が立った。オペラ歌手のような息継ぎ、助走がまるでない。いきなりゼロからイチを叩き出す。身構える間もなく度肝を抜かれた。いわゆるクリーンヒット。

 

 何がいいって、何よりきちんとキリエのうたが良かった。売り上げが芳しくないのかなあ。同時期公開の映画より一日当たりの上映本数が少ない。『消えないで』と思うけれど、まだやっている内にぜひ一度映画館に足を運んでほしい。

 繰り返す。私にとってこの映画が今年のベストだ。

 

 

 余談だが、もう一つアイナ・ジ・エンドがすごいと思ったのは、広瀬すずを完全に脇役にしていること。
 だって考えてもみて。広瀬すずみたいなザ・お人形を隣に置いたなら、引き立て役は隣に立つ側に決まってる。けれどうたで、表情で、動きで視線を攫う。追わずにはいられない。
 引き込まれる。作中ほぼすっぴんに見えるアイナと、きっちり化粧をした広瀬すずの対比。コントラスト。ただ造作の美醜に依らない。これはだから彼女個人の持つ底知れぬ魅力。