独り言多めの読書感想文

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【幸せを願うは願われることだった】東野圭吾さん『容疑者Xの献身』


東野圭吾さん『容疑者Xの献身』を、読書感想文してみる。

映像化され、何度も再放送されている作品に、通行人Aがおこがましい……! という問題はスルー。だって個人の感想だもの。それが私の愛し方よ。この作品を読んだ上で軽々しく愛とか言える私は恥を知るべき。セルフツッコミ。エコでしょ?

 

さて、今までいくつかの作品を取り上げてきたこの「独り言多めの読書感想文」そもそも読書感想文を掲載するのは「世の中にはこんないい作品があるから読んで欲しいー😆」から。だからあえてその作家さんにとって看板とも言える作品を避けて来た。
ただ、ちょっと思ったのは(あくまで代表作に比べて)知らない作品を評されても「今そこにいるあなたにとって、それが正しい見解かどうかを判断し兼ねる問題」は別にあって、ここいらで擦り合わせをするのも一つかなと思った次第。逃げれらんねぇからなこれは。

 

この作品の美点は「献身を、落差により最大限の価値として提示した」ことだと考える。

献身、すなわち「自分がどうしたいか」周りにどう見られるかではなく「そうすることで自分が幸せ」そのことを湯川は『あの男は論理性を重視する。感情は二の次だ。問題解決のために有効と判断すれば、どんなことでもやってのけるだろう』と言う。ここで言う「自分がどうしたいか」は花岡親子を助けること。そのために罪を犯し、汚名を着る。ここに明暗のコントラストが生まれる。ホメオスタシスが作用する。

 

困っている人を助けるのは、困っている人を助けることで、立ち位置をならすためだ。つりあいがとれて「よかった」双方笑顔になって寂しがりの葦は心の安寧を得る。一方、助けられた側は恩返しをしようとする。連鎖する。この連鎖は途切れることはない。どちらかが飲み込む以外。それが飲み込めない大きさだったとき、生まれる軋轢。それこそが、涙であり、叫び。

例えば大切な人を庇って死ぬことで満足するのは、自分が役に立ったと思えるから。生命という代償を支払って、その人の心に残り続ける。自己満足と言われようと、本人だけは、一つの思いだけは汚せない。
「考えうる限り理想的な形で生きて欲しい」という願い。そのためにより高い確率の幸せを示す。それもまた自己満足。自己満足。だから自己でない生き物は、必ずしもそれに従う必要はない。軋轢の先にこぼれ落ちた破片、が突き刺さる。他力。想定外の形で負った傷。その痛みに流れ落ちる涙こそが、感情をもつ生き物の証。
ホメオスタシス。人には、人類には、自浄作用がある。困っている人を放っておけない。その人が自分のせいで困っているのだとしたら尚更。

 

 

〈凍り付いたように動かなかった靖子の顔が、みるみる崩れていった。その両目から涙が溢れていた。彼女は石神の前に歩み出ると、突然ひれ伏した〉

 


コントラストをならそうとする。丁度温度差のある部屋の窓を開けるように。一緒になってやっと安心。何よりつながりを重んじる葦。「自分がどうしたいか」を重んじながら、行ったり来たり。そうして個々は成熟する。

 

「献身」に蓋を出来るのは同じく「献身」破れ鍋に綴じ蓋。そんな訳で、みるも鮮やかなこの作品、原作を読まないのは勿体なさすぎる。読んだら読んだでキャストとのギャップに驚くのも楽しみの一つ。

 

ここまで読んでいただいてありがとうございました😊うれしい。
あなたの読書ライフが、より実りあるものになりますように✨